Netflixが600億円でベン・アフレックのAI会社を買収——VFX業界に激震
NetflixがBen AffleckのAI映像制作スタートアップInterPositiveを最大600億円規模で買収、Rodeo FXはインド・バンガロールに新スタジオを開設し、SonyのPixomondo閉鎖が確定するなどVFX業界の地図が大きく塗り替わっている。
1. NetflixがBen AffleckのAIスタートアップInterPositiveを最大600億円で買収
3月5日、Netflixは俳優ベン・アフレックが設立したAI映像制作スタートアップInterPositiveを買収したと発表した。Bloomberg報道によれば買収額は最大6億ドル(約900億円)で、Netflixの過去最大規模の買収案件に匹敵する可能性がある。InterPositiveは16人のエンジニア・研究者・クリエイターで構成される小規模なチームで、ベン・アフレック自身はネットフリックスのシニアアドバイザーとして継続関与する。
InterPositiveが開発した技術はカラーグレーディング・リライティング・連続性修正(コンティニュイティフィックス)の自動化が核で、現在インド・韓国・フィリピン・ラテンアメリカの作業者がフレームごとに手作業で行っているVFX作業をAIが代替する。InterPositiveがNetflixに提示した内部資料には「VFXコストを50%削減し、エキストラや代役への支出では70%の削減が可能」という目標が記されており、制作コスト圧縮への期待が買収決断の主要因とみられる。
Netflixは自社のクリエイティブパートナーへのツール提供は計画しているが、外部への商業販売は予定していないと表明している。しかしこの決定は世界200万人以上が従事するVFX産業に深刻な影響を与えると専門家は指摘する。DNEG(8度のアカデミー賞受賞VFX会社)のコンポジットスーパーバイザーは「最大の打撃を受けるのはエントリーレベルの労働者だ」と述べており、若手VFXアーティストのキャリアパス自体が消滅しかねないという懸念が業界内で高まっている。
2. Rodeo FX、インド・バンガロールに新スタジオ開設——約400名のアーティストを統合
「DUNE」「ストレンジャー・シングス」などの大作を手がけたVFXスタジオRodeo FXは、インド・バンガロールへの新スタジオ開設を4月に発表した。2026年夏に本格稼働する予定で、同社のモントリオール・ケベック・トロント・ロサンゼルス・パリに続く6拠点目となる。バンガロールにはすでに分散していたチームが統合され、約400名のアーティストがグローバルパイプラインに組み込まれる。
Rodeo FXのCEOは「インドには卓越した人材プールが存在する。バンガロールへの開設により、この専門性をグローバルパイプラインに統合しながら、クライアントへの柔軟性と効率性を高めることができる」とコメントした。スタジオはRodeo FXの映画・エピソード制作・広告・体験型コンテンツ・アニメーションの全部門をサポートし、北米・欧州・インドの3大拠点体制を構築する。
この動きはCartoon Brewも「インド労働力問題がくすぶる中でのグローバル拡大」と報じており、VFX業界全体でアジア太平洋地域への制作シフトが加速していることを示している。ただし、AI自動化の波がベースとなる作業を置き換え始めているタイミングでもあり、拡大戦略と技術変革の両立をどう実現するかが同社の課題として注目される。
3. Rodeo FX、パリスタジオを刷新——Mikros Animationを統合した欧州新拠点へ
Rodeo FXはパリスタジオも大幅に拡張・刷新し、映画・エピソード制作・広告・体験型、そしてMikros Animationフランス部門のすべてを収容する新拠点へと移転した。Mikros AnimationはPAW Patrol: The Mighty MovieやTMNT: Mutant Mayhemなどで知られるアニメーション制作会社で、Rodeo FXが買収してグループに組み込んでいた。新パリスタジオはMikros Animationとのパイプライン統合を物理的にも象徴するものとなっている。
このパリ統合により、Rodeo FXはライブアクションVFXとCGアニメーションを一体のパイプラインで扱えるハイブリッドスタジオとして欧州市場での競争力を強化する。フランスはアニメーション制作への国家補助が充実しており、欧州各国の映画制作会社がフランスのスタジオと組む動機が強い市場だ。
またRodeo FXは「LOTR: The Rings of Power」や「DUNE」シリーズなど超大作での実績を武器に、Netflixや配信各社との長期パートナーシップ交渉を進めているとも報じられている。AI技術の台頭でコモディティ化が進むVFX市場で、スケールアップと専門性の強化によってプレミアムポジションを維持しようとする戦略が見える。
4. SonyのVFX子会社Pixomondo、閉鎖へ——「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」制作会社が幕
3月、SonyはVFX制作子会社のPixomondoを「段階的に閉鎖する」と発表した。オスカーとBAFTAを受賞した同スタジオは「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」「スター・トレック:ディスカバリー」などの大型シリーズで知られる実績あるVFX企業だったが、Sonyは進行中のプロジェクトや契約が完了次第、正式に閉鎖するとしている。
業界関係者はこの閉鎖を「長年のVFX産業構造的問題が表面化した象徴的な出来事」と受け止めている。VFXスタジオは激しい入札競争・低マージン・急速な技術変化という三重の圧力に長年さらされており、Pixomondoは2012年のアカデミー賞受賞(映画「ヒューゴの不思議な発明」のVFX)という栄光の歴史にもかかわらず持続的な収益化に苦しんだ。
Pixomondoの閉鎖は業界内での再編が加速していることを示す一例で、大手製作会社が内製AIツール(Netflixの場合はInterPositive)を導入する一方、外部VFX発注が減少するという構造変化が起きている。次の5年でVFX業界の生き残り企業は「AI技術を保有するか、AIを使いこなせる人材を持つか」どちらかに集約されるという見方が広まっている。
5. 2026年のVFXワークフローを変えるAIツール10選——ロトスコープから照明合成まで
ActionVFXがまとめた2026年版AIツールガイドによれば、ロトスコープ・モーショントラッキング・クリーンアップ・フレーム補間といった反復作業のほとんどがAIで自動化できる段階に入った。注目ツールとしてBeeble(2026 Webby Award受賞、映像間の照明一致を自動補正)、Topaz Video AI(解像度アップスケーリングとフレームレート向上)、LumaのDream Machine(テキストプロンプトで3D整合性を保ちながらカメラアングル変更)が挙げられている。
Adobeも積極的で、Firefly Video向けのGenerative Fill(動画の特定領域を生成AIで置き換える機能)を業界プレビューとして公開しており、既存のContent-Aware Fillと組み合わせることでクリーンアップ作業が劇的に効率化されつつある。Amazon MGM Studiosは2026年3月にAI制作ツールのクローズドベータを立ち上げており、キャラクター一貫性・プリプロダクション・VFXパイプラインへの応用を検証している。
ただしDNEGのコンポジットスーパーバイザーが指摘するように、AIが担うのはあくまでも反復タスクであり「本当に創造的な判断が必要な部分には今でも人間のVFXアーティストが不可欠」という見方が主流だ。ツールの普及が進む一方で、「AIを使って速く・安く仕事をこなしながらも創造性を発揮できる人材」への需要が逆に高まっているという逆説的な状況が生まれている。