映像制作

TRONとストレンジャー・シングスが示す次世代VFX

超大作のVFXブレイクダウンが相次ぎ、ハイブリッドAIパイプラインと税制インセンティブが業界を後押し。

1. 『TRON: Ares』VFX完全公開 ─ ILM・Image Engine・Distillery・GMUNKが結集

ディズニーの期待作『TRON: Ares』のVFXブレイクダウンが一斉公開され、ILM、Image Engine、Distillery VFX、GMUNKという4スタジオ体制の制作実態が明らかになった。特徴はネオン駆動のライトサイクルやデ・レゾリューション(De-rez)エフェクトを、実写プレートと完全CGプレートの間でシームレスに遷移させるパイプラインで、リアルタイムLEDボリューム撮影とポストCGの併用が要となっている。

特に注目されたのは、グリッド空間の粒子分解エフェクトである。キャラクターが光の粒子に還元されていくプロセスでは、メッシュベースの破壊ではなく、フロースジミュレーション(ベクター場駆動の粒子)とニューラルアップスケールを組み合わせた新しいソルバーが採用された。これによりインタラクティブな編集サイクルを維持しつつ、最終品質の粒子密度とモーションブラーを同時に確保している。

旧作『TRON: Legacy』から約16年を経て、リアルタイムエンジン由来のライティングワークフローとAI支援のマット出しが標準となったことが印象的で、ポスト工程全体が「撮って編集してから作る」から「撮影しながら仕上げる」方向へ再構成されつつある。

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2. EYELINEが『ストレンジャー・シングス5』でデモゴルゴンを復活

Netflix傘下のVFXスタジオEYELINEが、シリーズ完結編『ストレンジャー・シングス5』のブレイクダウンを公開した。象徴的クリーチャー「デモゴルゴン」をシーズン1の造形リスペクトを残しつつ現代的なボリュメトリック・シェーディングとCFDベースの皮膚シミュレーションで再構築し、ファンの記憶と技術進化の両立を狙った。

デモゴルゴンの開花する頭部は、花弁ごとに独立したマッスルリグを持ち、フェイシャルFACSに相当する内部の「ペタルFACS」によって咆哮の瞬間のマイクロ表情を制御する構造となっている。従来はエフェクトアニメーターが手付けで処理していた肉感表現を、ニューラルコリジョンで高速に評価できるようになった点が新しい。

また、Netflixがブリティッシュ・コロンビア州に新設したアニメーション&VFX施設は、EYELINEのパイプラインと統合されることが発表されている。劇場級IPをストリーミング主導で長期運用するための「社内縦統合」モデルが、ここにきて本格始動した形となる。

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3. Digital Domain、『IT: Welcome to Derry』でスケルトンマンを構築

Digital Domainがホラードラマ『IT: Welcome to Derry』に登場するクリーチャー「Skeleton Man」のメイキングを公開した。自社のGen Man 2.0テクノロジーをベースに、コントーショニスト(軟体パフォーマー)のモーションキャプチャと物理シミュレーションを組み合わせ、骨格の可動域を超えるような不気味な動きをリアルに成立させている。

Gen Man 2.0は、従来人手で修正が必要だった「人体の非人間的デフォーム」を学習データで補正する、いわば物理+ニューラルのハイブリッドソルバーである。コントーショニスト俳優の動きを基底パフォーマンスとしつつ、靭帯・関節・皮膚の想定外動作をAIベースの補間で拡張することで、不自然な断絶感を排除している。

同スタジオは並行してFramestoreによる『Mickey 17』のVFXブレイクダウンも話題を呼んでおり、ポン・ジュノ監督作らしい身体変容表現と多重クローンの扱いが注目されている。ハイブリッドAIパイプラインは2026年のVFX現場での「標準装備」になりつつある。

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4. 税制インセンティブ再編 ─ UK VFXとカリフォルニアが競争を加速

英国のAVEC(Audio-Visual Expenditure Credit)に基づく強化版VFXインセンティブが2026年申請分から本格運用に入った。VFX部分の実効ネット控除率が29.25%に引き上げられ、従来の80%上限が撤廃され、英国内のVFX適格支出100%が対象となる。ロンドン拠点スタジオの受注競争力が大きく底上げされる見通しだ。

一方、カリフォルニア州のメディア税制控除(Media Tax Credit)は、テレビ向けの申請期間が4月6〜8日、長編映画向けが5月11〜13日に設定されている。サウンドステージ不足とコスト競争に苦しんできたハリウッド地元制作の呼び戻しに向けて、スケジュールが明確化されたことは意義が大きい。

またリアルタイムDCC大手Reallusionは2026年のビジョンとして「ハイブリッドAI」路線を正式に打ち出し、従来のキャラアニメーションワークフローにAIキャプチャとAI補間を融合させるロードマップを公表した。インセンティブ・スタジオ内製・AIツールの3方向から、VFX産業の供給側構造が同時多発的に変化している。

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